万年筆が欲しい!

情報の衝動買い

 それは、2005年のことでした、師走も半ばを過ぎた頃だったと記憶しています。私は、書店で何気なく万年筆のムック本を手にしました。表紙には「万年筆が欲しい!」と大きく書かれていました。

 万年筆・・。もちろん使ったことはありますが、もはや縁遠くなってしまった事務用品です。にもかかわらず、数枚のページをめくった後、いつもの癖で内容をほとんど確認することもなく、そのムック本を購入したのを憶えています。これは、私がよくやる「情報の衝動買い」です。迅速でなければ意味のない情報を、私は時として蓄積してしまうのです。この「情報の衝動買い」は、ただの無駄に終わることもあれば有益な何かをもたらすこともあります。

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「ビッグレッド」~平和のためのペン

 それから10日以上が経過した年末の仕事納めの夕刻、溜まりにたまった「情報の衝動買い」を整理するため、まず最初にそのムック本を読み始めました。その内容は、私を久しぶりにワクワクさせるものでした。この手の書籍の性質上、まるでカタログであるかのように多くのメーカーの万年筆が紹介されている中、私はパーカーの「ビッグレッド(復刻版)」という万年筆に興味を持ったのでした。

 その解説によると、この万年筆は1945年太平洋戦争終結時にダグラス・マッカーサーが調印に使ったものの復刻版で、さらに1992年にはアメリカ大統領ジョージ・ブッシュとロシア大統領エリツィンが第二次戦略兵器削減予備条約への署名にも使った記念すべきモデルが原型だということです。それ以後、この比較的派手なオレンジ色のペンは、「平和のためのペン」と呼ばれているということでした。

BigRed

 私は、その時「万年筆が欲しい!」と思ったのです。すぐさま、それを手に入れようと懇意にしている銀座の伊東屋に出向くものの、販売開始から半年も経過した限定万年筆は、すでに売り切れていました。夜も更けて閉店近くになって東京駅近くのOazoにある丸善本店で、ようやくその万年筆を見つけ入手したのでした。それは、2005年の大晦日のことでした。

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最初に感じた付加価値

 私は、今まで、ほとんどその必要性を感じていなかった万年筆に、なぜか強く惹かれたのでした。たぶんそれは「オマージュ」、「トリビュート」、「メモリアル」というような情緒的要素を包含可能な万年筆という商品の「付加価値」に注目したのだと思っています。そして、現物のそれは高級時計のケースを彷彿とさせる重厚で豪華な木製の箱に納められていました。さらに、限定品としてのさらなる付加価値を演出するため、ペンのボディにはシリアル番号が振られ、オーナーズカードにも同様の刻印がありました。ここにはメーカーの様々な創意工夫が見られるとともに、万年筆マーケットにおける限定品とは、もはやこの方向性しかないのだろうという印象を持ったのを憶えています。

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