かつてのレコードはCDに変わり、VHSはDVDへと変わりました。そして、そのDVDもBlu-rayへとリプレイスされていくことでしょう。現在でもアナログのレコードプレーヤーは売られていますが、相当ニッチでマニアックな位置づけであることは間違いないでしょう。
しかし、万年筆はマイナーでありながらも、今後も淘汰されないであろう確固たる存在感がある気がします。販売に説明や時間を必要とする商品であるにもかかわらず、百貨店の文具売場でも、そして丸善や伊東屋をはじめとした高級文具店でも、事務用品のフラッグシップ的ポジションが与えられているのは事実です。また、限定品としての稀少性のみならず、高級ブランド品としての宝飾性も重視されているようです。

にもかかわらず、私が関与するビジネスシーンでは万年筆はほとんど見かけることがないのです。また、その構造的デメリットを考慮するならば、少なくとも私の周辺では、まったくといっていいほど出番のない筆記具といわざるを得ません。
私が万年筆に興味を持った翌年の2006年は、会社が創立15周年を迎える年でした。私は、その創立記念としてスタッフ全員に万年筆を贈ろうと思い立ったのでした。それも、各スタッフに対してすべて違った高級万年筆をと考えたのです。これは、万年筆にとっては相当な逆風ともいえる我々のビジネススタイルにおいて、この厄介ともいえる筆記具が、いったいどれほど受け入れられるのか、あるいはどのような評価をなされるのかという、ひとつのマーケティングリサーチでもあったわけです。

しかし、これには相当な困難がありました。とにかく、こちらがいくら考えて選んでも、万年筆の外観に対する好みのウェイトが高く全く予想がつかないのです。それほど万年筆には、嗜好のバリエーションがあるということなのです。これでは、お祝いや贈り物に万年筆というおきまりパターンが、実はいかに多くの使われない万年筆を生み出すばかりか、万年筆イメージの低下に繋がっているかという印象を持ったものでした。どちらにせよ、これをきっかけとして、多くの販売の現場での意見を聞くとともに視察もできたわけです。
そして、もうひとつ。この万年筆の世界(マーケット)において、このような試みは、確実に話題性を持つだろうという私の直感的打算があったのも事実です。実際、それは私の目論見を遙かに超えて注目を集めることとなり、「万年筆ミュージアム」の刊行以前からメディアにも取り上げられ、会社のPRや話題性には極めて大きな効果をもたらしたのでした。
