帝国ホテル:日本初の「ブルーベリーパイ」

 日本で最初にブルーベリーパイが商品化されたのは、帝国ホテルにおいてだとされています。そして現在でも、東京千代田区内幸町1-1-1に位置する帝国ホテル本館1階にあるパークサイドダイナーで、そのブルーベリーパイを食べることができ、ショップのガルガンチュワでのテイクアウトも可能となっています。

帝国ホテル

 さて、この日本初のブルーベリーパイの評価はというと、私が考える国産ハイブッシュブルーベリーを使った視覚的にも食感的にも新鮮さを感じる粒状感ある究極のブルーベリーパイのイメージとは異なるのですが、現時点におけるブルーベリーパイのひとつの完成形だと評価しています。おそらく素材のブルーベリーはその粒状性から輸入のローブッシュだと想定されます。しかし、その製法に独自の妙があるとともに、完全に甘さを抑えたヘルシーな作りになっているのです。その上、そのボリューム感から考えると、コストパフォーマンスはかなりのものだといえるでしょう。私が今まで体験したブルーベリー加工品の中で、輸入ローブッシュを使ってここまで上品に仕上げた製品はありませんでした。

帝国ホテルのブルーベリーパイ

 まず、パイ生地に対するブルーベリーの量が圧倒的なボリュームを感じさせるのですが、とにかく甘さが抑えられていることが好印象を与えます。一般的にブルーベリーパイに対して持っている先入観としての甘さから想定すると、このボリュームでは食べきれないという印象を持つことになるでしょう。しかし、最初の一切れを口にすると一瞬で安堵を覚えるのです。中の素材に関しては、ブルーベリー以外には何も混ぜ込んでいないということなので、やはり国産ブルーベリーでは今のところコスト面からしても、これに対抗するものを作るのは不可能ではないでしょうか。また、その独自製法による結果なのでしょうが、ブルーベリー加工品特有の粒状感や光沢感がないのです。しかし、この全く溶け出すことのない凝固感こそが、私が今までイメージしていたブルーベリーパイとはかけ離れた存在だったのです。したがって、私のイメージする対極に位置しているにもかかわらず、これを「ひとつの完成形」だと評価したのでした。日本初のブルーベリーパイを商品開発するにあたり、帝国ホテルが試行錯誤の末に辿り着いたひとつの結論が、このブルーベリーパイだということになるのでしょう。そして、それは将来的にもひときわオリジナリティ豊かな製品でもあったのです。

帝国ホテルのブルーベリーパイ

 帝国ホテルのブルーベリーパイは、パークサイドダイナーでの提供価格が900円(サービス料別)、ショップガルガンチュワでの販売は630円です(2012年現在)。その後も、幾度かパークサイドダイナーを訪問し、このブルーベリーパイを注文しているのですが、私の評価としては甘さが以前より増した印象があり、現在では私が高く評価した「ひとつの完成形」としてのポジションが揺らいでしまいました。それは私の感覚や評価基準の違いに由来するものなのか、実際に製法が変わり糖分が増え味が変わったのかが不明だったので、確認したところ「レシピ自体は変わっていない」ということでした。しかし、以前よりも加工されたブルーベリー自体の光沢感が増したのは、以下の写真から明らかだと思います。焼き目も以前よりも薄く、見た目が極めて上品なブルーベリーパイに変化しているのも事実でしょう。

 現在の率直な印象としては、私が以前に心惹かれた「外形が朴訥でどっしりとしていながらも中身が上品なブルーベリーパイ」から「いくつもの受賞歴のある有名パティシエがつくった見栄えのいいブルーベリーパイ」に変貌してしまった気がしています。また、パークサイドダイナーでの提供価格は950円(サービス料別)に改訂され、テイクアウト可能なガルガンチュワではカット販売がなくなり、ホール(16cmが2500円、18cmが3700円 ともに税抜)での販売のみとなりました(2014年秋現在)。

 日本で初めての本格的ホテルとして誕生した帝国ホテルには、「日本初」とされるものがあまりにもたくさんあります。今では当たり前になっているホテルウエディング、バイキングという食の形態、そしてホテル内にショップを設けたりアーケードを造ったのも、帝国ホテルが最初であるとされています。そこには、老舗書店である丸善が日本初の株式会社組織であったり、生命保険の仕組みをつくったり、ハヤシライスの発祥であったり、万年筆という命名の先駆けであったりすることと共通するものがあるのだと思います。

 私が常々思うことなのですが、記録というものはいずれ破られるものの、何事においても一番最初に成し遂げたという功績は、けっして破られるものではないのです。オリジナリティ(独創)という概念は素晴らしいものだと思います。また、そこには業種や業態を超越した発想やアイデアがあると考えています。しかし、長い年月の間には、社会情勢や時代に翻弄されたりブームや嗜好にも影響を受けるため、その時の思い入れや意思を継続し続けることは、たとえ老舗であっても容易なことではないのかも知れません(2015年秋)。