最も美味しいブルーベリー品種についての考察

 生果における「最も美味しいブルーベリー品種」については、ブルーベリー大図鑑制作時にすでに考察済みです(P.9~)。したがって、ここでは、それとは別のアプローチを試みたいと思います。ひとつのいい例として、多くの人が「最も美味しいブルーベリー品種」とするスパルタンについて考察してみたいと思います。

スパルタンの果実

 ワインの世界では、特にヴィンテージワインを前提とした場合、「最も美味しいワインの銘柄は?」などという問いかけは、愚問だといえるでしょう。もちろん、自分にとって過去の体験の中で最も美味しかったワインの銘柄は存在するはずですが、それを最も美味しいと公言したならば、自らの経験値の少なさのみならずレベルの低さを露呈することになることでしょう。

 なぜなら、ワインには、特にヴィンテージワインには、ボトル差があると同時になによりも「再現性」がないからです。ここには、ある意味「最も美味しいブルーベリー品種は?」という問いかけと共通するものがあると思われます。しかし、ブルーベリー関係者の間では、スパルタンを一番美味しい品種であるとする意見がかなり多いように、私は感じています。

 スパルタンという品種は、もちろん北部ハイブッシュ系品種ですが、私が常々スパルタンに感じていたものは、南部ハイブッシュ系品種に共通する味覚イメージがあるということです。それを一言で表現するならば、「大衆受けする食べやすさ」ということになります。これは、酸味と甘みのバランスの妙を前提とする北部ハイブッシュ系品種のいわばマイナス点ともいえる酸味の強さに偏った時のリスクを回避した品種ともいえるのです。スパルタンに、その類い希なる特性が実現されたことは賞賛に値することだといえるでしょう。しかし、それは同時に、北部ハイブッシュ系品種の特徴である酸味が甘みに変化するピーク時の絶妙さを犠牲にして誕生したものだともいえるのです。

 実際、果樹の美味しさを大きく左右する香りという側面においては、ほぼ同時期に収穫される品種としては、コリンズの方がスパルタンよりも明らかに上であることは間違いないでしょう。最高の「栽培技術」と「収穫技術」によって生産されたコリンズとスパルタンを同時に味わってみて、スパルタンの方が美味いという人がいたら、私はその味覚レベルを疑うことでしょう。また、北海道、青森、岩手北部を除いた東北地方あるいは同じく極寒地域ではない甲信越地方で、栽培技術と収穫技術に長けた生産農家が育てたコビルの甘酸の絶妙さにも、スパルタンは絶対に叶わないことでしょう。

コリンズの果実

 それでもスパルタンを推す理由がひとつだけ存在します。それは、「栽培技術」はさておき「収穫技術」に自信がないか未熟である場合だといえます。これが、「大衆受けする食べやすさ」に走る本質であり、リスクの回避であり、唯一無二の付加価値喪失の根源でもあるのです。

 私は、多くの人が賞賛するスパルタンという品種を低く見做したいのではなく、まだまだ奥深いブルーベリー品種の世界への理解を促進するとともに、数多くの実体験を促したいと思っているのです。現在、他の北部ハイブッシュ系品種と比較するならば、脆弱とされているスパルタンが全国各地で健全に生育しています。これは、生産農家の様々な努力のあらわれであり「栽培技術」の成果だと考えています。さて、その「栽培技術」が実証されているのですから、その次には、私が確実に存在すると断言しているスパルタンの果実品質に勝る品種を世に送り出してはどうでしょうか。それは「栽培技術」のみならず「収穫技術」を極めることにも繋がると私は考えています。

 なお、私がスパルタンに感じていた南部ハイブッシュ系品種のイメージを裏付けるものが二つ存在します。一つは、他の北部ハイブッシュ系品種と比較すると、スパルタンが南部ハイブッシュ系品種同様、あまりにも複雑な交配によって誕生しているという事実です。そして、もう一つは、スパルタンの多くの外観上の特徴はまさに北部ハイブッシュ系品種なのですが、花冠が南部ハイブッシュ系品種や半樹高ハイブッシュと同等に小さいことがあげられます。おそらく、ここに私がスパルタンに直感的に感じたイメージの背景があると同時に、同様な性質が備わった理由が存在すると考えています。

 最後に、先ほどの補足ですが、「大衆受けする食べやすさ」がスパルタン人気の秘密であるならば、南部ハイブッシュ系品種の多くはその要素を多分に持っているといえます。にもかかわらず、ブルーベリー関係者の中で南部ハイブッシュ系品種が一番美味しいブルーベリーとして上がってくることが少ないのは、その経験値の事実上の乏しさを物語っているともいえるのです。そして、その事実は、同時に日本ではいまだに南部ハイブッシュ系品種の本格的な栽培事例が極めて少ないということを意味しています。それほどに、日本のブルーベリーマーケットは、いまだ未成熟でもあるのです。