宍戸園は、なんと東京23区内にあるブルーベリー農園である。よって、この「ブルーベリーの旅」には該当しないのだが、宍戸園には、「旅」をするに相当する「自然」が存在する。
有機栽培を基本とし、益虫はもちろんのこと、ブルーベリーの害虫ですら駆除することは一切しない。なかなか出会うことはないが、自然溢れる園内には、いまだヘビが生息している。基本的に自然が大好きで、それを東京都内でも実現したいという農園づくりがその根底に存在する。また、園主の趣味性に根ざしたブルーベリーへの「こだわり」も多分に加味され、品種の豊富さと正確さを心がけようとする信念がある。
ブルーベリーは品種間異差が微妙で、一般にはその正確性を追求することは、あまり意味がないとされているようだ。また、場合によってはアンタッチャブルであるとさえされるのと同様、基本的に土地利用型を基本としない営利の果樹栽培も邪道であり無謀であるといえる。
しかし、そこには、従来型の既存概念によらない、全く新しい価値観を創造しようとする宍戸園のチャレンジがある。そして、いまだ短い時間ながら、その知名度と信頼性は着実に築かれつつある。どうも、それは、宍戸園のブルーベリーに対する極めて強い愛着と思い入れによるところが大きいようだ。
一般に、 ビジネスを考えた場合、当然営利を目的とするために、愛着や思い入れが、逆にそれを阻害する場合も多い。また、ビジネスが順調に運ぶほど、その愛着や思い入れがあるにもかかわらず、それを実現できなくなることも多い。
実際問題として、ブルーベリーだけで農園を維持していくことは極めて難しいのが現状である。 現在は、ブルーベリーを中心にラズベリーブラックベリーなどすべてのベリー類を扱い、さらには養蜂までこなすマルチの活躍ぶりには、やはりその根本に自然への愛着と思い入れを感じざるを得ない。
秋から冬にかけてのブルーベリーのオフシーズンには、宍戸園の「洋ナシ」がお薦めである。洋ナシは、ブルーベリー同様、本当の美味しさを知らない人が多い極めてマイナーな果物である。また、ブルーベリー同様に多くの品種があることもほとんどの人が知らない。大多数の人は、洋ナシといえば、あの缶詰にされるざらついた食感のバートレットをイメージするのである。洋ナシには、有名なラ・フランス以外に、オーロラ、ドゥワァイアンヌ・ドゥ・コミス、ル・レクチェなど非常に美味しい品種がたくさん存在するのである。
宍戸園は、高級フルーツ店でしか購入できないこれらの品種を農家からの直接仕入れによって安価に取り揃えている。
しかし、品種など意識せずに「ブルーベリーはブルーベリーでしかない」と考えるメジャーは、「洋ナシも洋ナシ」としか捉えないのである。小玉でも、1つ150円のスーパーのラ・フランスに対して、500円もする大玉のル・レクチェは、相対的に高すぎることになる。ル・レクチェの相場が1000円だとしてもである。
それがメジャーの評価ならば、それは多数決の原理であり、結果として大多数が常識までをも形成するのだから仕方がない。こだわりに対して、そのこだわりに相当する評価が必ずしも下されるとは限らないのが現実である。
ブルーベリーに特化した宍戸園をどこまで維持できるかは、今後、大衆がブルーベリーをどう捉えるかに大きく関わっている。だから、宍戸園の存在とは、日本のブルーベリーに対する消費者の感度を見極めるリトマス試験紙ともいえる。
いつだったか、アメリカの大規模生産者が、宍戸園を訪れて一緒に話をしたことがあった。機械による一回の収穫量が、宍戸園の年間の収穫量にあたると言っていた。ブルーベリー母国アメリカのスケールは、日本とは全く異なる次元らしい。
また、その時に、ブルーベリー先進国イギリスでは、品種が明確でないブルーベリーを、仕入れないスーパーがあるという話を聞いたことが、今でも鮮明な印象として残っている。 |