アート作品

 単純なオブジェとしての作品が多いヴィエナ・ブロンズは、一般にいう「アート」に属すものではないようです。また、ヴィエナ・ブロンズのジャンルにおいても「アート作品」というカテゴリー分けも存在しません。

 しかし、私は、この「バイオリン」を見た時、これこそ一般にも「アート」として訴求可能な作品ではあるまいかと感じました。この作品は、そのモチーフのみならず、完成度というレベルにおいても、そしてヴィエナ・ブロンズ自体としても極めて稀少なものだといえます。

バイオリン

 バイオリン自体を緻密かつ繊細に再現することは、様々な素材で可能なことです。実際、プラスチック製や木製の小さくて精密なバイオリン細工を見かけたことはあります。しかし、ブロンズを素材とした緻密で繊細なものは今までに見たことがありませんし、このようなエイジング感を伴ったものは皆無なのです。

ヴァイオリン

 特に、メンデルスゾーンのバイオリン協奏曲の譜面が緻密かつリアルに再現され、そこに時間経過のみが創出しうるエイジング感がさらなる質感を与えています。そして、長い時間を経過した古木で制作されたバイオリンのボディをブロンズを素材にコールドエナメルで表現しているのです。そして、そこにも実際のエイジング感が加わっている絶妙さは、まさにアンティークにおける「アート作品」だと、私は思うのです。

バイオリン

 音楽や楽器に全く興味も関心もなかった私は、この作品との出会いをきっかけにバイオリンという楽器に興味を持ちました。そして、おそらくこの作品はアントニオ・ストラディヴァリの「ストラディヴァリウス」をモチーフとしてつくられたものなのだろうと思っています。そして、この作品を見るたびにバイオリン製作の工程や、北イタリアのクレモナに想いを馳せることができるのです。