京都栂尾山・高山寺(とがのおさん・こうさんじ)

 ヴィエナ・ブロンズサイトの立ち上げと同時に「ヴィエナブロンズ戯画」の制作を思いつき、一気にファーストバージョンを創ってしまったのが2009年の6月になります。同時に、その発想の根底にあった「鳥獣人物戯画」というものを再び見つめ直してみたのです。そして、その年の秋、鳥獣人物戯画の故郷ともいえる京都栂尾山・高山寺をはじめて訪れてみたのでした。

高山寺表参道

 ウィーンの「ヴィエナ・ブロンズ」と、京都の「鳥獣人物戯画」とは、なんの縁もゆかりもないことでしょう。しかし、私自身にとっては、この2つの間に奇妙な符合と重複するイメージがあったのです。おそらく、ヴィエナ・ブロンズとの出会いがなければ、私はこのように明確な目的を持って高山寺を訪れてみようとは思わなかったはずです。このことも私にとっては、極めて有意義なセレンディピティだったといえるのです。

高山寺金堂

 高山寺金堂は、重要文化財・国宝に指定されてる建造物でありながら質素で素朴な佇まいでした。高尾、槙尾と並んで紅葉の名所とされる三尾のうち栂尾は北のはずれに位置し、京都の観光地としては特にマイナーな地区だといえるでしょう。実際、午前中の訪問だったとはいえ、紅葉の季節の休日とは思えないほど静かなものでした。シャッターチャンスとフレーミングによっては、観光客が入り込まないショットも可能だったのです。

高山寺参道石畳

 

 実際にここを訪れてみて、私が最も不思議に思ったことは「高山寺」の呼称(仮名読み)でした。何を調べてみても、電子辞書で複数のソースを一括検索してみても、その読み方はすべて「高山寺(こうざんじ)」です。にもかかわらず、ここの関係者の方々は自らが従事する寺を「高山寺(こうさんじ)」と称しているのです。

 その起源を辿ると、後鳥羽上皇の勅額「日出先照高山之寺(ひいててますてらすこうさんのてら)」にあるといいます。古くは濁音を表記しなかったことによるのかもしれません。あるいは言語学的には「高山寺(こうざんじ)」が正しく、多くの学者もそれを支持しているから、すべての辞書や広辞苑が「高山寺(こうざんじ)」を採用しているのかもしれません。

 しかし、当の寺自体の口述による継承が「高山寺(こうさんじ)」であることは、前述したとおりなのです。果たして、真実はどちらなのでしょうか。実際には、どちらでもいいような些細なことなのかもしれませんが、多数決によって常識となったもの、あるいは事実として確定されているものに相反する別の事実が、それ自身の中に存在しているという非常に興味深い現実にここで遭遇することとなったのです。私は、圧倒的大多数による定説に反して、関係者によって口承されてきた「高山寺(こうさんじ)」と称したいと思います。

栂尾山高山寺