はじめて出会ったヴィエナ・ブロンズ

 表参道ハナエモリビル地下にあるアンティークマーケット「AntiQ」というショップで見かけたヴィエナ・ブロンズは、食材としてのウサギをモチーフにした「紙ばさみ(ペーパークリップ)」でした。

 食べるために捕らえられ、足を縛られて逆さまに吊されたウサギが極めてリアルに表現された製品は、現代の生活感覚あるいは食の感覚とは、ほど遠いものだといえるでしょう。ウサギの口元付近には、赤のペイントによる血の痕跡までもが微妙に表現されていました。

ウサギの紙ばさみ

 そのような製品にもかかわらず、私は、なぜか不思議な魅力を感じたのでした。そして、価格を尋ねたところ、購入意欲が一気に失せるような金額だったことだけは鮮明に憶えています。 実際に再びこのショップを訪れるまで、私はこのウサギの存在も価格も完全に忘れていたわけで、つまり買う気など全くなかったわけです。

 この製品は、一応「紙ばさみ」という実用品でありながらも、事実上は何の役にも立たない単なる「アンティークオブジェ」にほかならなかったのです。しかし、この製品こそ、私がはじめて出会った「ヴィエナ・ブロンズ」だったのです。

AntiQ

 その後も、このショップを訪れて「ウサギの紙ばさみ」を見るたびに、何か惹かれるものがありました。そして、買うつもりがなく忘れてしまった価格をあらためて尋ねるたびに、何となく気にかかって再燃しかけた所有欲がまたまた消え去ってしまうという、その繰り返しだった気がします。